関東近辺で行われるボートのメッカは埼玉県の戸田漕艇場で、よく大会が行われます。
大学の漕艇部員をはじめ企業のボート部員も大会に向けた練習に励んでいるのです。
ボートに乗る人はたいていガタイのいい屈強な男たちをイメージしますよね。
でも、そのなかで1人だけやせた人がボートに乗っていることをご存じですか?
それはコックスといって、ボートではなくてはならない重要な役割を果たす人なのです。
ボートは後ろ向きに進むのでクルーは進行方向を見ることができませんよね。
でも、コックスが掛け声をかけることで、クルーは呼吸を合わせてゴールへ向け最短の道をまっすぐ進むことができるのです。
ここではボートのコックスにはどのような役割があるのか、またどんな練習をおこない、どんな掛け声をかけるのかについても詳しく解説していきます。
ボートレースにおけるコックスの役割は?
私も学生時代一時期ボートを漕いでいた経験があります。
一番仲のいい友人がコックスをやっていたので、彼から見聞きしたコックスの様々な役割について紹介したいと思います。
コックスは、ボートには乗りますが漕ぎません。
指示しているだけのようなのでとても楽チンに見えますが、実はとても重要な役割があり、ボートの中ではとても大切なポジションなのです。
ボートレースはコックスがクルーに掛け声をかけ皆の動きをリードしながら、いかにはやくゴールするが問われるスポーツですので、コックスの役割はとても重要なのです。
コックスはボートは漕がずに掛け声をかける
コックスの役割は舵をきることと指示を出すことで、ボートを漕ぐことではありません。
コックスの掛け声は、「キャッチ・・・ソウ」・・・「キャッチ・・・ソウ」の繰り返し!
クルーは後ろ向きに漕ぐので進行方向を見ることができません。
だからボートの先端に乗ったコックスが掛け声をかけ、クルーの呼吸をひとつにすることでゴールへ向かって真っ直ぐ進むことができるのです。
一度水上に漕ぎだしてしまうと、レース途中で監督やコーチの声は届きません。
唯一頼りにできるのは客観的な判断ができるコックスからのタイムリーな指示だけです。
コックスは船の先端でつねに変わる水上の状況を判断しながら、ボートの向かう方向を決めクルーに的確な指示をしてゴールを目指すのです。
コックスの役割はクルーとの信頼関係から生まれる
コックスはクルーとの信頼関係が生まれ、クルーと意思疎通が図れるようになってはじめて役割を果たせることになります。
たとえコックスが難しい指示を出したとしても、クルーとの信頼関係があればクルーは理解してくれるので練習の成果を上げることができます。
一方コックスとクルーとの信頼関係がないと、いくら素晴らしい練習メニューを指示してもクルーには理解してもらえず良い成果はあがりません。
大学の漕艇部員のほとんどは寮で生活を共にしています。
いつも一緒にいればそれぞれクルーの性格は把握できるため、「きょうは元気ないな」とか「調子よさそうだな」というのは肌で感じられるようになるようです。
コックスは各クルーの性格を把握することで信頼関係が生まれ、うまくコミュニケーションを取るようにしているのです。
コックスのボート上における具体的な役割5つ
- クルーへの指示や号令をかける
- 練習メニューの管理や安全管理をおこなう
- クルーへの情報伝達や、技術指導をおこなう
- ボートの整備や点検および装備品を管理する
- 練習メニューやタイムおよびトレーニング内容の記録をとる
クルーへ指示を出し号令をかけること
コックスはインカムのようなマイクをつけ、ボートに取り付けたスピーカーを通してクルーに号令をかけゴールをめざします。
「キャッチ・・・ソウ」・・・「キャッチ・・・ソウ」と皆の呼吸をそろえます。
コックスが勝負どころでいつスパートの号令をかけるかで、勝敗の行方が大きく左右することになるのでその役割は重要なのです。
また、風や波の動きがよめるようになると、もう一人前のコックスの仲間入りです。
コックスはボートの中で唯一前をむいているので、前はもちろん周囲にも目を配りながら、危険があれば早めにキャッチして対応しなければいけません。
クルーはまさしく司令塔の役割を果たすのです。
練習メニューを実行しボートの安全管理を行うこと
コックスはトレーニングメニューを頭に叩き込み、正確に実行する必要があります。
クルーはギリギリまで追い込み練習メニューをこなしていくため、練習でのセット数などを間違えないようにしないと、クルーの体調を崩してしまうのです。
河川や湖のコースでは水の流れが変わると座礁するかもしれないので、注意が必要です。
また流木などの漂流物へ衝突してしまったら、命に関わることにもなりかねません。
艇やオールの接触は、コックスにも大きな責任の一端があるのです。
クルーへの情報伝達や技術指導を行うこと
コックスは計測したタイムをクルーに伝えたり、障害物や航路の変更などさまざまな情報をタイムリーに伝えていく大切な役目があります。
クルーの長所をいかにそのレースで活かすことができるかが重要であり、それがコックスの腕の見せどころなのです。
クルーの苦手なところには目をつむり、得意なところを伸ばす工夫がたいせつです。
そのコツをつかめば、ボートだけでなく社会生活でも人を動かすことができるのです。
ボートの整備・点検を行い装備品の準備をすること
ボートのセッティングや装備品およびオールのメンテナンスなどの点検は、それぞれの役割分担を決め事前に準備しておくことが重要です。
コックスボックスやピッチ計(ストップウォッチ)などの必需品は、コックス自身が責任をもって管理しなくてはなりません。
また、ボートのなかは意外と電子機器がいっぱい詰まっています。
バッテリー充電や電池交換、およびマイクの調子などをチェックし故障や不具合がないかをきちんと管理しておくこともコックスの重要な役割なのです。
練習メニューやタイムとトレーニング内容の記録をとること
コックスは、その日の練習で行ったメニュー項目、タイムやレートなどトレーニングの記録をしっかりまとめておく必要があります。
またその日のクルーごとのコンディションやそれぞれ練習の成果や課題などについて、今後トレーニングの参考とするために記録をつけておきます。
コックスが記録をつけておくことで、クルーを向上させるための管理手法にもなります。
また、自らの考えをまとめておくことにもなるので自身の成長にもつながります。
コックスがのるボートの位置はどこ?
コックスが乗るボートの位置は2通りある
ボートの先端のコックピットと呼ばれる部分の中に体を潜らせるようにして入り、仰向けになって首だけ起こすのを「トップコックス」といいます
写真上(赤いユニフォーム)のトップコックスは、クルーの動きを見ることができないためボートの揺れや振動、艇のスピードなどで、ボートの状態を把握します。
写真下(黄色いユニフォーム)は、コックピットがボートの一番後ろにありそのスペースに座るのを「スターンコックス」と呼びます。
スターンコックスでは、クルーの動きが正面で見えるので技術的な指導がしやすいです。
一方でクルーが壁となって前方が見えにくくなるので、操舵が難しくなるというデメリットもあります。
ボートの花形「エイト」では、スターンコックスのみで、トップコックスはありません。
コックスには体重制限があります
レースでのコックスの体重は、男子は55kg以上、女子は50kg以上と規定されています。
体重制限は「〇〇㎏以上」がポイントですが、基準を何kg超えても制限はありません。
しかしながら「重さが1kg軽くなればと〇.〇秒速くなる」という勝負の世界では、体重が軽いことに越したことはないです。
コックスはできるだけ規定体重に近づけようとする努力はとても大切なことです。
健康を損なうような過度な減量はかえって逆効果となるので、やりすぎは禁物です。
コックスは乗れるボートと乗れないボートがある
ボートレースで使用されるボートは、クルーやコックスの人数で以下の通り分かれます。
ボートは多くの種類がありますが、ボートレースで主に使われるのは、大きいオールで漕ぐスイープ種目と、小さいオールで漕ぐスカル種目の2種類に大きく分けることができます。
- エイト:8名のクルーとコックス1名合計9名が乗船。
- ナックルフォア:4名のクルーとコックス1名合計5名乗船。
- ダブルスカル:2名のクルーが小さいオールで合計4本で漕ぐ。
- シングルスカル:1名のクルーが小さいオール2本で漕ぐ。
- スイープ種目:大きいオールを1人1本もって漕ぐ。
- スカル種目:小さいオールを1人2本もって漕ぐ。
コックスが乗るボートは「エイト」や「ナックルフォア」などスイープ種目に限られます。
エイトは8名のクルーとコックス1名の合計9名でレースを行い、全ボート種目の中でも最も速いスピードで2,000mの距離を競う花形種目なのです。
ナックルフォアは4名のクルーとコックス1名の合計5名が乗る場合と、フォアという4名のクルーだけで漕ぐ場合がありますが、この場合コックスは乗りません。
ダブルスカルは2名のクルーが、小さいオールを左右1本ずつ計2本(2人で合計4本)持って漕ぎますが、シングルスカルは1名のクルーだけで小さいオール合計2本で漕ぎます。
オリンピックではほとんどの競技は2,000mの距離でスピードを競います。
110年以上の歴史を超える早慶レガッタは、隅田川(新大橋上流~桜橋上流)で距離3,750mでの勝敗を争います。
因みに2022年の早慶レガッタ対抗エイトでは、桜橋あたりで慶應が猛追し、大接戦となりましたが、早稲田がゴール手前わずか50㎝という僅差で勝利をもぎ取りました。
まとめ
ボート競技は比較的競技人口は少ないものの、参加する人はとても熱い情熱をもってレースに挑みますので勝ったときの達成感と言ったら興奮度Maxです。
競ったボートレースの観戦などでは観客たちなども興奮状態になること請け合いです。
今回はボートに乗り込むコックスの役割を中心に、クルーとの関わり合いや掛け声など練習のやりかたなどについてまとめてみました。
この記事でのポイントは以下の通りです。
- クルーへの指示や号令をかけ、ボートをコントロールする
- 練習メニュー管理や安全管理をおこなう
- クルーへの情報伝達や、技術指導をおこなう
- ボートの整備や点検、備品を準備する
- 練習メニューやタイム、トレーニング内容の記録をとる
- 体重制限がある(男子は55kg以上、女子は50kg以上)
以上、ボートに乗り込むコックスの役割を中心に、練習方法やどんな掛け声なのかについてさまざまな角度から解説致しました。